奴らが結婚するのは、他にすることがないからさ

 ローリング・ストーンズの『Flowers』(1967年)に"Sittin' on a Fence"という隠れた名曲が収録されている。69年に不慮の死を遂げたブライアン・ジョーンズハープシコードを担当したアコースティック調の切ないバラードだ。タイトルの"Sittin on a Fence"は成句表現で、フェンスの上に座って、グランドの右側にも左側にも下りず、傍観している「どっちつかず」の状態を表している。この曲は歌詞の印象が強烈で、初めて聴いた時からずっと頭を離れない。

All of my friends at school grew up and settled down
学生時代の友達は、みんな大人になって落ち着いた
And they mortgaged up their lives
自分たちの人生を抵当に入れちまったんだ
One things not said too much, but I think it's true
誰もが口にすることじゃないが、これは本当のことだ
They just get married 'cause there's nothing else to do, so
奴らが結婚するのは、他にすることがないからさ
 
I'm just sittin' on a fence
だから俺はどっちつかずなのさ
You can say I got no sense
馬鹿げてると言えばいい
Trying to make up my mind
決心しようとするなんて
Really is too horrifying
本気でゾッとする
So I'm sittin on a fence
だから俺はどっちつかずなのさ(拙訳)

 ストレートに解釈すると、いわゆるモラトリアム期間の延長が歌われている模様。記事のタイトルにした「奴らが結婚するのは、他にすることがないからさ」というフレーズが特に辛辣で、最初に聴いた時、ショックを受けたのを覚えている。きつい言い方するなあって(汗)。50年も前の曲だけど、若年層の就労問題やら青年期の長期化やらが社会問題化する現代でも、この歌詞の有効性や普遍性は失われてないんじゃないかな。どうも自分の中でイメージが重なるようで、この曲を聴くと、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公ホールデン・コールフィールドを思い出す。大人や世間を"phony"(インチキ)と徹底的に毒づいたホールデンとの共通点を何だか感じる。最終的にホールデンは心を病んだようでサナトリウムで療養することになったのだが。